契約書作成の重要性について
行政書士は日頃、数々の書類の作成を依頼されていますが、「契約」に関する依頼は、年々多くなってきています。
一口に契約書類の作成といっても、取引の形態は千差万別です。とくに訴訟の対象とされたものについては、契約内容の不明確さ、加えてその方式の不備がその要因であることが指摘されています。
後日、当事者が、その解釈をめぐって紛争にもなりかねない事態を防ぐためにも、極力、正確な意味が理解されるような表現を用いて契約書を作成する必要があります。
契約とは
一般的に、契約とは相対立する二人(または、二人以上)の当事者がある意思表示をし、その対立した意思表示が合致したことにより成立する法律的効果の発生を契約といわれています。
契約の種類はたくさんありますが、例えば、コンビニで缶ジュースを1個買い、レジで代金を支払う。この行為も「売買」と呼ばれる契約の一種です。「缶ジュースを買いたい」・「わかりました、売ります」という両者の意思表示が合致したことにより、契約が成立したわけです。
相手側に、口約束で「タダでいいよ、あげるよ」と約束をすると、それだけで「契約」が成立したことになります。「冗談だよ」で済ませられれば結構ですが、「契約書などを交わしてないから契約は成立していない」と安易に考えているととんでもない事態になる場合があります。言い換えれば、口約束でも契約は有効に成立し得るということです。
契約書作成の法律的意味
契約の締結は、基本的に当事者の自由にまかされているのですが、法律行為の一種であることには間違いありません。
契約の当事者が、自分が口に出して約束したことは必ず守るということであれば、契約書を作成する必要はありません。
しかし、現実はどうでしょうか?契約の存否・内容について当事者間で正反対の主張がなされ、第三者の判断(裁判所など)を得るべく紛争が日常茶飯事的に発生しています。
契約書は、このような第三者に、契約の存否・内容について納得してもらうための証拠の一つになっています。
口約束のため、何の形も残っていない、証明することもできない、そんな形に残っていない契約を、具体的な形にして文書化したのが契約書です。契約書という形で残すことで、お互いに言い逃れができなくなるわけです。
紛争の解決が法廷の場に持ち込まれる場合を考えてみても、物的証拠の一つである契約書によって、契約の存否・内容を証明するほうがはるかに有利・確実といえます。
しっかりした契約書の存在は、不誠実な当事者が契約違反の主張をすることを封ずる予防効果を生み、最終的に訴訟に持ち込まれた場合でも、契約書の存在により自己の不当な主張が認められない事が予想できれば、不誠実な当事者もそのような主張をすることを最初からあきらめざるを得ないことになります。
契約書の構成
契約書は通常、1表題、2前文、3本文、4後文、5日付、6当事者の表示・署名・押印、7別紙目録・付属の表や書類から構成されています。土地売買契約を例にすると
表題は「土地売買契約書」などと、契約の内容が一目で分かるように契約書の冒頭に付けられる題目です。前文は、「売り主を甲とし、買い主を乙として、甲・乙間に次のとおり売買契約を締結した」というような表現を用い、契約書の冒頭に記載されます。本文は、当事者双方の合意の部分であり、契約の具体的な内容です。
売買物件の表示、対象面積、売買価格、売買代金の受け渡し方法、支払い義務、引き渡し義務、所有権移転の時期、瑕疵責任、収益の帰属、負担の帰属、売買費用の負担、危険負担、失権約款、契約解除と違約金、裁判所管轄、特約事項などの条項が記載されます。
それぞれの項目について条文化され、各条の中でさらに、項、号などに細分化される場合もあります。(第二条何々、第三条何々、第三条第一項何々、などと記載されます)後文は、本文の後ろにおかれ、普通「右のとうり売買契約が成立したので、本書二通を作成し、甲および乙は各自署名捺印の上各一通を保有するものとする」というような内容で契約書を締めくくります。日付は、契約の日時が紛争の解決に重大な影響をおよぼす場合が多いので、契約書の作成の日付も明確に記入しておく必要があります。署名・押印は、当該契約書が当事者の意志によって作成されたことを外部に証明する手段として署名・押印します。
署名は、自己の氏名を自ら書くことであり、記名というのは、氏名をゴム印その他の印章で押印したり、パソコンやワープロで打ったり、他人に書いてもらったりすることをいいます。したがって、記名押印というのは、自筆でない自分の氏名の下に印章を押印することをいいます。
印章にはいわゆる「実印」と「認め印」があることは常識です。法律上実印を押印することを要求されている場合もありますが、一般の契約書などの押印には、実印を押さなければならないということでなく、「実印」でも「認め印」でも原則として押印の価値に変わりはありません。
しかし、契約書の作成自体が、後日の紛争に備えて証拠として作成されるものであることから、大事な契約書においては、契約当事者の署名(記名ではない)、実印押印、および印鑑証明書が添付してあれば、係争になったときの証明力が強くなります。別紙目録・付属
契約の対象物の数が多いときなどに別紙として目録を作り表記します。また、地図、図面などの資料がある場合なども別添付書類がある旨を記載します。収入印紙の貼付
契約書には、印紙税法により、印紙を貼付しなければならないものがあります。しかし、契約書と収入印紙が貼付されていることの有無により、契約書の効力が無効になるわけではありません。印紙税法に違反するわけです。
用紙
用紙の大きさに制限はありません。パソコン・ワープロの普及でA4・B5サイズの大きさの文書が一般的になっていることからB4・A4・B5サイズの大きさが普通です。縦書きか横書きか
上記は、縦書きの例ですがどちらでもかまいません。自分の作りやすい方式を選べます。最近では、パソコン、ワープロ等の普及で横書き方式の契約書が増加の傾向にあります。
使用する数字
文字について特別の制約はありませんが、注意しなければならないのが数字です。売買金額のように重要な数字は、「1、2、3、10」のようなアラビア数字は簡単に改ざんされやすいので使用してはいけません。「一、二、三、十」のような漢数字なども「壱、弐、参、拾」を用いて記入しましょう。
訂正印
書き間違えたり、数字を変更したりしたい場合は、訂正する箇所(文字や数字など)の上に二本線を引いて、(削除した文字があとから読めるように)その横に正しい文字や数字を記入し、訂正箇所の近くに押印します。本文の訂正箇所に訂正印を押すと、他行の本文にかかって読みにくくなる場合には、契約書の上部などの空欄に「何字削除何字加入」といった形で記載し、訂正をした証として押印します。
捨印
契約書の上部などの空欄に当事者双方が押印します。契約書作成後に、些細な字句の誤りが見つかったときなどに備えて、訂正手続きの手間を省くために慣習的に押印することが多いのですが、文章を変造される恐れがないともいえません。契約書での乱用は危険です。契約書作成後に、誤字・脱字がないか、文章表現に誤りがないか等、もう一度契約内容を確認しましょう。
割印(契印)
契約書が複数枚にわたりホッチキスで止めたような場合は当事者双方が各頁にまたがって押印し、一体になっていることを証します。
袋とじ(各枚ごとに半折りにして合わせ、背を別紙で包みこんで糊づけする)の場合は糊づけの境目に契印を押します。
また、二通以上作成した同じ契約書の同一性・関連性を証する場合には、それらを重ね合わせて当事者双方が契印を押します。
止め印
文章や金額、数量などの下に余白があるときは、その下の余白にあとから書き加えによる変造を防ぐ意味で止め印を押します。
消印
収入印紙に押印します。契約書に使用した印鑑で、印紙と書面の両方にまたがるように押印します
後日、トラブルが発生するのは契約書がないか、契約書の記載条項に曖昧な表現や不当な内容が記載されている場合です。
市販の契約書を用いているような場合には、条文の内容をよく調べて、自分の不利になるような条項があれば、相手側にそのことをいって、訂正するなり抹消させるなりして、あとに問題が残らないようにしておかなければいけません。その他、金額や日付に間違いがないか、印紙が貼ってあるか、契印は押してあるかなど、こまかいところも確認します。契約書に署名・押印する前にもう一度確認しましょう。
1 契約書を渡されたら
「口頭で説明を受けた内容が文書化されているのだから何の問題もない」と思って、何も読まずに判を押すことが一番危険なことです。文章表現には専門用語などが記載されていたりします。理解しにくい内容の場合は遠慮なく相手側に説明を求めましょう。何度でも目をとして内容を理解することです。最初から「相手を信用しよう」という考え方が間違いの基になります。
2 曖昧な表現になっている条項
「契約期間は2年間とする」・・・いつから2年間なのかはっきりしていない場合など契約終了の日時について争いになる場合があります。契約期間を定めている取引形態の契約の種類は無数にあります。
また、「何々の場合は協議により円満に解決するものとする」、「著しく遅延したとき・・・」などと言う表現で記載されている契約書は注意が必要です。「協議」・「著しく遅延したとき」の表現自体があいまいですから、これに解決方法を委ねてしまつた場合には、万一、トラブルが起きたときには解決まで長引く可能性があります。
曖昧な表現で記載されている条項は注意が必要です。
3 公序良俗に反する契約条項(民法90条)
公の秩序や社会の道徳観念に反することを目的とする法律行為は無効になります。
● 300万円の債権の弁済に換え1,000万円の不動産を取得するような暴利行為
● 犯罪をさせ、または、させないために金品を与える行為
このような契約は、無効とされ法的な保護を受けられません。
4 強行規定に反する契約
法令のなかには、公の秩序を維持するために設けらた規定(強行規定)と、公の秩序に関係なく、法律行為の当事者の便宜のために設けられた規定(任意規定)と呼ばれるのがあります。
● 貸金業者が業として金銭消費貸借契約を結ぶ際に、年利29.2%を超える利息の支払いを求める契約は、出資法により超過した部分が無効になります。
(出資法第5条2項)
● その他一般的な金銭消費貸借契約における利息の上限は、元金が10万円未満の場合は年20%、10万円以上100万円未満の場合は年18%、100万円以上の場合は年15%と定められており、その超過した部分については無効になります。(利息制限法第1条1項)
また、遅延損害金として請求できる最高限度は、それぞれ上記の上限率の1.46倍を超えるときは、(最高限度21.9%)その超過した部分については無効になります。(利息制限法第4条1項)
その他、「借地借家法」の借地権の存続期間や、更新期間の規定、「身元保証に関する法律」の保証期間の規定などで、その反した期間については無効になります。(借地借家法第3条、同4条)、(身元保証に関する法律第6条)
1 重要な財産の取得・処分、巨額の商品取引その他これに準ずる重大な案件
不動産に関する取引はその典型的な例と言えます。
土地売買契約★建物売買契約★土地建物の売買契約★動産の売買契約★商品売買契約★継続的取引契約など。
2 契約内容の複雑な案件
社会生活や商取引が複雑になるにつれて、高度の法律技術を駆使して複雑な内容を有する契約書を作成する必要がある案件。
著作権に関する契約★特許権・実用新案権・意匠権・商標権に関する契約★ソフトウェアに関する契約★インタ−ネットに関する契約★フランチャイズ契約★フ−ドチェ−ン店契約★特約店・代理店契約など。
3 契約内容の実行・完了まで、相当の日時を必要とする案件
契約成立からその履行完了までに日時を要する案件については、当事者の気持ちも変われば、状勢も変わる場合もあります。その期間、不誠実な当事者は契約の拘束から逃れようと試みる場合があります。
土地建物等の賃貸借契約★動産の賃貸借契約★使用貸借契約★各種の金銭貸借契約★債権および債務の変更、消滅に関する契約など。
その他、示談書(和解契約書)、請負契約、委任・寄託契約、人事労務契約、会社運営に関する契約など多種多様な契約形態があります。
当事務所では、各種の契約書作成に際し、細心の注意を払って「契約書」を作成いたします。